はじめに:空き家問題は他人事ではない
日本全国で空き家が増加の一途をたどっています。実家が空き家になった、相続した家が空き家になったという方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、「誰も住んでいないのだから、そのままにしておけばいいだろう」と安易に考えていると、思わぬ負担を強いられることになります。
特に注意すべきは、2015年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」(以下、特別措置法)です。この法律により、空き家を放置すると、固定資産税が最大6倍に跳ね上がる可能性があるのです。
この記事では、空き家の所有者が知っておくべき「特定空家」制度と、固定資産税がなぜ、どのように上がるのか、そして指定を防ぐ方法まで詳しく解説します。

固定資産税が6倍になる「特定空家」とは
特定空家の定義
特定空家とは、2015年に施行された空家等対策特別措置法で定められた、状態の悪い空き家のことです。
特定空家は、市区町村が現地調査し、以下のいずれかの状態に該当する空き家で、周辺の生活環境に悪影響を及ぼしていると自治体が判断した場合に指定されます。
●倒壊等の危険性がある状態: 基礎や壁、屋根が腐食・破損し、倒壊の危険がある
●衛生上有害となる状態: ゴミの不法投棄、害虫や悪臭の発生
●景観を損なっている状態: 雑草が生い茂り、外壁が剥がれ落ちているなど、著しく景観を損なっている
●その他、生活環境の保全上不適切な状態: 不審者のたまり場となり、防犯上の問題があるなど
市区町村が認定する流れ
行政による現地調査
所有者への指導・助言
状況改善が見られない場合、勧告 → 命令 → 特定空家指定
必要に応じて行政代執行(強制的な解体や修繕)

なぜ固定資産税が上がるのか

固定資産税の優遇措置「住宅用地特例」制度とその解除
まず、なぜ空き家を放置すると税金が上がるのかを理解するために、日本の固定資産税の仕組みを知る必要があります。
固定資産税には「住宅用地特例」という制度があります。これは、住宅が建っている土地の固定資産税が大幅に減額されるという優遇措置です。
200㎡以下の部分(小規模住宅用地): 固定資産税の課税標準額が6分の1に減額
200㎡を超える部分(一般住宅用地): 固定資産税の課税標準額が3分の1に減額
例えば、土地の固定資産税が10万円だった場合、住宅用地特例が適用されると、課税額が10万円 × 1/6 = 約1万6,667円まで減額されます。つまり、住宅が建っているだけで、固定資産税が最大で6分の1になるのです。
しかし特定空家に指定されると、この特例が解除され、土地の評価額が元に戻ります。
固定資産税課税の増額イメージ
空き家 (勧告前・特例適用時) → 固定資産税10万円 → 住宅用地特例適用
特定空家(勧告後・特例解除後 )→ 固定資産税が最大6倍に跳ね上がる
先ほどの例で言えば、10万円の固定資産税が、60万円になる可能性もあるということです。
これは、空き家をそのまま放置し続けた所有者への罰則的な意味合いが強い措置と言えます。
特定空家に指定される前の対策方法

「特定空家」に指定されてしまうと、金銭的な負担だけでなく、行政からの命令や、最終的には解体費用まで請求されるリスクがあります。そうならないためには、空き家を適切な状態に保つことが非常に重要です。
以下に、今すぐできる具体的な対策を挙げます。
対策1:修繕・管理で防ぐ方法
雨漏りなどの点検、屋根・外壁の補修
定期的な通気・換気・草刈り・樹木剪定
窓ガラスや雨戸の破損修理
ゴミや不用品の撤去
- 不審者の侵入対策
- 空き家管理会社に管理を依頼
対策2:売却・賃貸などの選択肢
- 売却: 不動産会社に査定を依頼し、市場価値を把握する。売却して現金化。
- 賃貸: リフォーム費用や家賃収入のバランスを考慮し、賃貸物件として再生する。
- 活用: 自己負担0円で空き家活用を依頼
対策3:解体・更地にする
特定空家に指定され、解体命令を受ける前に、自ら解体するのも一つの選択肢です。
- 解体費用がかかるが、固定資産税の増加分を長期的に考えると安上がりになる場合がある。
- 売却が難しい古い家の場合、更地にして土地として売却する方が買い手が見つかりやすい場合がある。
まとめ:「負動産」になる前の早めの対応が損を防ぐ
空き家を放置して特定空家に指定されると、固定資産税が最大6倍に跳ね上がるだけでなく、景観の悪化、防犯・防災上の問題など、多くのリスクを抱える「負動産」となりかねません。場合によっては解体費用まで請求されます。「まだ大丈夫」と思っている間に行政の目が入り、勧告を受けるケースも珍しくありません。
放置=節約ではなく、放置=損です。
早めに管理・活用を始めることが、資産価値を守る最大の防御策になります。
